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通じる体験が育む力とは

私たちは大人になるにつれて、言葉によるコミュニケーションを多くとるようになります。しかし、言葉を使ったコミュニケーションが大切なのではなく言葉を獲得する前に『通じる体験』を十分行っていたかが大切になります。

通じる体験をたくさん経験することで、赤ちゃんはたくさんの力を自然と成長させることが出来ます。では『通じる体験』を行うことでどのような力を育むことが出来るのでしょうか?今回は、通じる体験が育む力について解説します。

 

1.『体験』とは?

お互いにコミュニケーションをはかるためには、通じる体験が必要不可欠です。人とつながることが出来るようになるためには、言葉によるコミュニケーションよりも先に、表情や視覚による交流が取れていることが大切です。言葉を覚えるよりも先にある通じる体験が、その後の人と人の関係を促進するために重要なポイントになります。では、そもそも『体験』とはどのようなことを指すのでしょうか?

体験は客観的なものではなく、自分自身が経験することで主観的なものになります。ですので、相手がどれだけこちらにアピールしていても、自分が認識していなければ体験になることはありません。自分がしっかりとキャッチし認識したことが『体験』になるので、第三者は関係なくあくまでも自分自身に関する事です。

『体験』と言っても人によって異なってきます。先ほど述べたように体験は自分自身のもので自分がキャッチし認識したものになりますので、キャッチする情報が異なれば体験も体験を通して学習する内容も異なってきます。

 

2.人と通じる体験を通して育つ『安心感』『自信』

情報をキャッチし学習していく体験ですが、人によって異なることが前提になります。私たちは赤ちゃんの時から大人になるまでにたくさんの体験を通して成長を遂げていきますが、やはり赤ちゃんの時は初めての体験から怖い体験、嬉しい体験と実に様々な体験を通して成長します。体験から学ぶ中でも赤ちゃんにとって重要になるのが、『安心』と『安全』と『信頼』です。赤ちゃんにとって自分の身を自分で守ることが難しい場合には、『安心』出来る『安全』な場所に『信頼』出来る人がいるということは成長をする上で必要不可欠になります。しかし、大人になれば『安心』『安全』『信頼』という言葉の意味の違いを理解しますが、子供の時はこれらの言葉の違いは実に曖昧です。言葉の意味は違いますが、子供や赤ちゃんからしたら信頼という言葉ではなく全てを含めて安心できる一つの世界ということと捉えています。

実は赤ちゃんは安心できる一つの世界を母親のお腹の中にいる時から感じています。母親はお腹に赤ちゃんがいると解った時から、赤ちゃんを第一に身の安全を守り続けていきます。そういった体験から母親を取り囲む環境全てが安心できる場所であるかを赤ちゃんは自然と感じ取っていくので、生まれた時には安心感は少なからず持っていると言われています。胎教がわかりやすい例で、お腹の中にいる赤ちゃんに話しかけたりすることが多いと、赤ちゃんの中で安心感を体験として体の中に蓄えていき安心感を得た状態で生まれていきます。そしてその後、さらに表情の交流からコミュニケーションをはかるようになり、相手に自分の気持ちを分かってもらえる体験を積み重ねていきさらなる安心を育み成長していきます。

しかし、通じる体験を経験していない赤ちゃんは常に強い不安を抱えた状態ですので、変化が起きることも大きな不安に感じてしまいます。すなわち、人と通じる体験やわかってもらえた体験が多ければ多い程、安心感は育っていきますし、生まれる前から安心感を体験として赤ちゃんが無意識の内に蓄えていっているということになります。人と通じる事や理解してもらえたということは、赤ちゃんにとってとても重要な出来事になります。

安心感が赤ちゃんの成長に重要な役割があり、人と通じ合い理解してもらえたという体験を通して育まれますが、『自信』も通じ合えた体験から育まれます。

言葉が出てきていなくても赤ちゃんの時から、自分の思いがわかってもらえたり通じる体験が出来たことが自信の礎となります。言葉が出てきてからの通じ合う体験も自信をつける上では大切になりますが、言葉を習得する前に信頼感を得ていなければ本当の意味での自信にはなっていません。自信とは自分に対しての信頼の程度ですので、言葉が出る前に人にどの程度わかってもらえたかという体験が多く、その自信を少しでも育てられた赤ちゃんは安定して成長を遂げていきます。

『安心感』と『自信』はどちらも赤ちゃんや子どもが成長していく上では大切になりますが、自信は安心感に比べると言葉を習得してからもどんどん伸びていきます。言葉によるコミュニケーションや理解をしてもらえるようになると、さらに自信をつけていくことが出来ます。しかし、この自信をつけるためには言葉になる前に人にわかってもらえる体験が十分になければなりません。

 

3.感情をコントロールする力は気持ちを理解してもらうことからスタートする

自信は自己評価に直結していますので、自信がない=自己評価が低いことになります。自己評価が低いと勝負事になった時に自分が勝たなければならなくなり、負けることがとても怖くなってしまいます。負けた時に泣いてしまったり怒ってしまうことは小さい年齢の時はよくあることですが、入学以降になると勝ち負けで負けた時にこのような態度に出てしまうと我慢が足らないのではと言われてしまいます。自信が育っておらず自己評価が低いために、自信を育てていくことが最優先になります。

では自信を育てるといっても、先ほど述べたように言葉が出る前に通じ合う体験が十分にないと自信はスムーズに育ちにくくなります。もちろん発達や成長には個人差がありますので、自信がつきにくい子も中にはいますが、通じ合う体験が少ない場合は自己評価は低くなる傾向にあります。

負けた時に大泣きしてしまったりして、感情のコントロールが上手くいかないのも自己評価や自信に関係しています。次に勝てば良いから、負けても良いのだということを自信をもっている子はしっかりと理解していますが、自信が少ない子にとっては1回の負けが許せなくなります。そういう場合には、出来る限り自信をつけられるように工夫していく必要があります。

感情をコントロールする力は、例えば赤ちゃんの時に泣いた時に言葉で原因を探すのではなく、まずは本能的に泣いている我が子をあやして涙を鎮めようとしますよね。赤ちゃんが泣いていることの原因を探す前に、泣いている子の気持ちに寄り添い注意を向けます。そしてその後に、泣いている原因は何だったかを考え始めます。赤ちゃんからすると、泣いた時に抱いてもらうことで気持ちに寄り添ってもらい、気持ちを鎮めていくことが出来たという体験が大切になります。この体験を繰り返していくことで感情をコントロールする力を育むことが出来ます。

よく育児書などにあるアタッチメントという言葉ですが、アタッチメントとはつらい時や悲しい時に、気の知れた人(友人や家族)と一緒に過ごすことで辛い感情を鎮めることが出来ることを指します。赤ちゃんの時に泣いたら信頼できる人が抱いてくれることで、悲しい気持ちを鎮める体験を何度も繰り返すことで、アタッチメントが形成されていきます。不安な時や嫌な時、離れたくない時に安全基地となる信頼できる人のところへ帰ることが出来ると、徐々に自分の力で感情をコントロールすることが出来るようになっていきます。このアタッチメントの形成は、赤ちゃんの時にスタートして子ども時代に出来る限りたくさん体験することが良いとされています。大人になってからは中々育つことが出来ませんので、いろいろなことを柔軟に吸収することが出来る子ども時代に体験していくのが良いでしょう。

 

4.叱られることも繋がることの1つ

感情をコントロールする力や『安心感』『自信』といった感情は、言葉を話すことが出来ない赤ちゃんの時に、たくさん人とつながり理解してもらった体験が根底にあります。そこから、赤ちゃんはたくさんの感情や思いを学びながら成長していきます。その学びの中は必ずしも楽しい体験や嬉しい感情だけではなく、同時に怒られる体験や悲しい感情も学んでいきます。人とつながるということは、相手が自分の思い通りに動いてくれない、といずれ知ることとなります。自分の思いを通したいという自己主張から、どうしても思い通りにならないことがあるということを体験していくのが『イヤイヤ期』と言われる期間です。多くの親はこの『イヤイヤ期』を非常に大変な思いをして乗り越えていきます。子供にとっても大人にとっても自我の目覚めの時期は様々な葛藤をもって成長を遂げます。

子育てをする上で、叱ることは1つのポイントになります。いつでも子供が笑顔でいてくれる訳はなく、大人が忙しい時や大変な時に限って何かをこぼしたり、駄々をこねてしまいます。また、誰かを叩いてしまったりいたずらをしてしまったりすると『叱る』ことがあります。感情的に怒ってしまうこともあるでしょう。

この『叱る』ということも、人とつながっている1つの体験になります。『叱る』という感情は、実はとても自分の気持ちに素直で、子供にもダイレクトに伝わっていきます。叱られた時に関わってもらえたと感じてしまうと、どんどん叱られる(関わってもらいたい)ためにしてはいけないことをするようになります。赤ちゃんの時期には叱られる事は嫌で、褒められると嬉しいと気持ちがわかれていないので、この時期にどんどん叱ってしまうと、赤ちゃんは叱られることをすると関わってもらえると学習してしまいます。発達がまだ十分ではない時に叱るのではなく、発達をしっかりと待った上で『叱る』ことが大切です。しかし、危ないことをした時はどの年齢であっても『叱る』ことをしなければなりません。命の危険が生じた時等は、きちんと叱るようにしましょう。

 

5.やる気は周りから認められた体験に比例する

子供だけでなく大人にもやる気や意欲は何をする際にも必要になります。わからないことや知りたいことに前向きにとりかかっていく力ですが、この意欲はある程度成長した時に初めて発揮されます。では、赤ちゃんの時はどうでしょうか?

赤ちゃんの時は身の回りにあることや起きることは、全て初めての事ばかりでわからないことで溢れています。赤ちゃんが意欲を持っているかを細かく調べることは出来ませんが、赤ちゃんは通じる体験を通してたくさんの情報を吸収していくことは明らかです。中でも、自分がしたことによって相手が喜んでもらえたという体験は、出来た事で自分が嬉しいだけでなく他の人に喜んでもらえたことが嬉しいと感じるようになり、繰り返しするようになります。これは相手と通じる体験を豊富に体験していないと出来ないことです。自分がしたことが喜ばれ、認められた時にはその後の発達はさらに大きくなっていきます。どんどん自分だけでなく、周りの人の力も取り込んで行動していきますが、この行動がやる気や意欲と捉えても問題ないでしょう。本来持っている力以上の力を発揮して、どんどん範囲を広げていくと共に探求心も旺盛になっていきます。このように、自分の力以上の事を発揮したり、自分が知らない場所へチャレンジしようとなるには通じる体験や不安になった時に帰ることが出来る安全基地が必要になります。この2つが揃うことで、赤ちゃんはどんどん自ら成長していくようになります。

このことをふまえて考えると、学校で過ごす子供の中で勉強や運動が出来る子はたくさん認められていたり、褒められているために意欲が旺盛です。しかし、勉強や運動が出来ない子は注意されたり叱責されることが多いために、意欲が育たない体験を多く繰り返しています。出来ないことが出来るようになったという事に誰かが気が付いて褒めてもらえたり認められただけで、こうした場合でも子供は意欲を持つようになり成長をしていくことが出来ます。

他の人に認められたり褒めてもらえた体験は、やる気や意欲を育むには非常に大切な体験で、この体験なしに意欲をもって行動することは難しくなります。どんな小さな事でも良いので、出来たことを見つけていき認めてもらえたという体験を繰り返すことが今後の成長に大きな影響を与えていきます。

 

6.まとめ

赤ちゃんにとって大切な通じる体験ですが、この通じる体験は多くの力を育む基礎になりますので、子供の時に出来る限りたくさん体験してもらいたいものです。言葉によって通じるのではなく、表情や交流を行うことで通じる体験を行っていきます。通じる体験をしっかりと行った赤ちゃんは安心感や自信を多くつけていき、その上で感情をコントロールする力や意欲を身につけていきます。これらの力は通じる体験を十分に行ってきたからこそ身につけることが出来ますので、まずは子供と視線を合わせ気持ちを汲み取り気持ちが通じ合うことの喜びを伝えることから始めましょう。

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