消費税免税事業者の判定基準とは?新たに設立した法人が課税事業者になる場合も。インボイス対応、法人化についても解説

税理士コラム

消費税を正しく理解し、適切に対処することは、日本の企業にとって重要な課題です。特に、免税事業者としての判定基準は、新たに設立した法人にとって経済的な影響が大きいテーマです。本記事では、判定基準について詳しく解説していきます。この情報を元に、皆さんが正確な判断を行い、事業運営をスムーズに進めるお手伝いができれば幸いです。

消費税免税事業者の判定基準

免税事業者の判定は、事業規模や売上高などの要素に基づいて行われます。具体的には、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であれば、その事業者は免税事業者として扱われます。これは、事業者にとって大きな経済的恩恵となります。

基準期間の売上とその重要性

基準期間とは、課税期間の前々年度を指し、この期間の課税売上高が免税事業者の判定に用いられます。例えば、2024年度の課税期間における免税事業者の判定は、2022年度の課税売上高に基づいて行われます。基準期間の課税売上高は事業者が課税事業者か免税事業者どうかを左右するため、非常に重要となります。また、基準期間の売上が1,000万円を超えた場合は、翌々年から課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。このように、基準期間の売上は事業者の財務戦略に直結するため、正確な計画と管理が必要です。もっとも、課税事業者としての判定を避けるために、基準期間の売上高を1,000万円未満にするため、本来基準期間の売上高として計上するべきものを恣意的に売上高の計上時期を翌期にすることは、脱税行為とみなされる可能性がありますので、避けましょう。

特定期間の影響

基準期間における課税売上高が1,000万円以下であれば、原則的には免税事業者となりますが、基準期間の売上高が1,000万円以下であっても、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、課税事業者となる可能性があるため、消費税免税事業者の判定基準においては、特定期間も重要な役割を果たします。特定期間とは、前年度の事業年度のうち、最初の6ヶ月間です。この期間の課税売上高が1,000万円を超える場合、その翌年度から課税事業者となることがあります。つまり、特定期間の売上が急増した場合、翌年度から突然の消費税負担が発生する可能性があります。このため、特定期間中の売上状況を綿密に把握し、適切な対策を講じることが求められます。

なお、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかの判定は、課税売上高に代えて、特定期間中に支払った給与等の金額により判定することも出来ます。

そのため、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えてしまった場合でも、給与等の金額が1,000万円を超えない場合には、課税事業者として該当をしないため、売上高だけではなく、給与の支払額についても、留意するようにしましょう。

(参考)国税庁HP 特定期間の判定
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/22/10.htm

(参考)税務署 消費税改正のお知らせhttps://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/pdf/h23kaisei.pdf

新たに設立した法人の免税事業者判定

新たに設立した法人の場合、資本金の額による判定もあります。法人を設立した場合は、その事業年度の基準期間がないため、基本的には免税事業者となりますが、資本金の金額が1,000万円である場合、設立初年度から課税事業者として判定をされてしまうことになります。資本金の額が大きい方が、一般的には信用度が高いため、法人設立際に資本金の額を大きくしようと1,000万円以上としてしまった場合、本来、免税事業者になれるにも関わらず、課税事業者となってしまうため、資本金の額についても、慎重に検討をして設定をしましょう。

なお、グループ会社や複数の法人を経営している場合に留意すべき事項として、特定新規設立法人の納税義務の免除の特例がございます。詳細の要件等の説明は割愛しますが、設立された会社が50%超株式を保有されている場合で、親会社や関係会社等で課税売上高が5億円を超えているケースにおいては、設立をする会社の資本金が1,000万以上でなくとも、免税事業者にはなれず、課税事業者となる場合があります。該当しそうな場合は、税理士等の専門家に相談をしましょう。

(参考)国税庁HP 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6503.htm

免税事業者 手続きと実際の流れ

免税事業者である場合、届け出等は不要です。ただし、①基準期間における課税売上高が1,000万円超となった場合、②特定期間における課税売上高が1,000万円超となったときについては、消費税課税事業者届出書の提出が必要となります。

(参考)国税庁 消費税課税事業者届出手続(基準期間用)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_03.htm

(参考)国税庁 消費税課税事業者届出手続(特定期間用)https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_03a.htm

課税事業者となった場合は、速やかに、税務署に届け出をしましょう。また、消費税の申告、納付が必要となるため、キャッシュに余裕をもって準備をする必要があります。たまに、赤字である場合、消費税を納付しなくてもいいと認識されている方がいますが、消費税の場合、受け取った消費税と払った消費税との差額で、受け取った消費税が払った消費税よりも多い場合、納付することになりますので、赤字であったとしても納付をする必要があることに留意をする必要があります。なお、受け取った消費税よりも払った消費税が多い場合には、還付をされることとなります。

課税事業者になった場合に、基準売上高が1,000万円以下になった場合の対応

消費税の課税事業者になった場合においても、売上高が減少をして基準期間における課税売上高が1,000万円以下となったことにより、免税事業者になることを希望する場合は、税務署に届け出をしましょう。

特に、適格請求書発行事業者になっている場合、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となっても、適格請求書発行事業者の登録の取り消しや消滅の届出をしない限り、引き続き課税事業者として、消費税の申告・納税が必要となりますので、留意しましょう。

消費税の正しい申告と納付

課税事業者と認定された場合、まず取り組むべきは消費税の正しい申告と納付です。決算後、一定期間内に税務署への申告を行い、所定の消費税を納付する必要があります。この過程において、税理士の協力が欠かせません。特に、消費税額の計算や申告書の作成には専門的な知識が必要となるため、専門家のサポートを受けることが推奨されます。

税法改正への迅速な対応

税法は定期的に改正されるため、その都度迅速に対応することが求められます。特に、消費税に関するルール変更が行われる場合、免税事業者に対する判定基準や手続きも変更されることがあるため、最新の税法情報を常に把握しておくことが重要です。情報収集には税理士や会計士、専門家の協力を得ることが有効です。さらに、改正に伴う必要な手続きを前もって準備し、スムーズに実行できる体制を整えることも大切です。

適格請求書発行事業者登録(インボイス)への対応

令和5年10月からインボイス制度が開始をされたことにより、法人向けにサービスをしている事業者においては、新たに設立した法人で免税事業者としてなれる場合においても、取引先との関係から、新設と同時に適格請求書発行事業者登録となるケースが増えております。自社の消費税の免税におけるキャッシュ上のメリットと適格請求書発行事業者でないことの事業上のデメリットを勘案して、適格請求書発行事業者登録をするかどうかは、総合的に判断するようにしましょう。

なお、個人向けのサービスにおいては、基本的には適格請求書発行事業者登録をしなくとも事業上、影響がないものと考えられます。適格請求書発行事業者登録をした場合、課税事業者となり、消費税の申告・納付をしなければならないです。個人向けサービスの事業者においても、適格請求書発行事業者登録をされているケースもありますので、適格請求書発行事業者登録をするかどうは、慎重に判断をしましょう。

法人化と消費税

個人事業主が法人化をするタイミングのひとつに、基準期間の売上高が1,000万を超えたかどうかが重要な判断基準となります。新たに設立した法人の場合、基準期間がないため、原則的に免税事業者となります。そのため、個人事業主において、課税事業者となるタイミングにおいて、新たに会社を設立した場合、最長で2年間免税事業者となることが出来ます。ただし、法人化した場合、別途、法人化の費用が発生したり、申告手続きが個人事業主のときよりも煩雑化することにより税理士の費用が個人事業主のときよりも高くなることもありますので、総合的に判断をするようにしましょう。

まとめ

消費税の制度は、複雑であるため、思わぬ落とし穴が潜んでいる可能性があります。また、キャッシュへの影響がとても大きいです。そのため、正確な情報収集と適切な対応が不可欠です。基準期間や特定期間の売上高管理、届出手続き、インボイス対応、法人化等については、税理士など専門家のアドバイスを活用することで、正確かつ効率的に消費税の負担を最小限に抑えることができます。調べてもわからないときは、身近な税理士に一度、相談をしてみることをオススメ致します。

ご相談・お問い合わせはこちら

人気記事

取締役や役員が加入すべき社会保険とは?知っておくべき重要ポイント解説
消費税免税事業者の判定基準とは?新たに設立した法人が課税事業者になる場合も。インボイス対応、法人化についても解説
DX化/クラウド会計、コミュニケーションツール導入のすすめ

新着記事

取締役や役員が加入すべき社会保険とは?知っておくべき重要ポイント解説
消費税免税事業者の判定基準とは?新たに設立した法人が課税事業者になる場合も。インボイス対応、法人化についても解説
DX化/クラウド会計、コミュニケーションツール導入のすすめ