『訪問看護』という言葉を聞いたことがある人も近年では増加してきています。訪問看護とは、自宅で療養している人に対して医療行為の支援や看護サービスを行うことを指しますが、実際には様々な支援やサービスがあり多岐にわたります。今回は訪問看護についての知識に合わせて、どのような支援やサービス内容があるのかや、訪問看護の対象となる人について詳しく解説します。訪問看護って何だろうと感じたら是非参考にしてください。
1.訪問看護とは?
訪問看護とは様々な病気や障害によって、治療が必要となった人が病院へ通って治療を行うのではなく、安心できる自宅で療養上の世話や診療の補助を行うことを指します。訪問看護は、高齢者だけでなく子どもから大人に至るまで幅広い年齢層でその人に合った支援を受けることが出来ますので、自宅で看護を受けたいけれど一人では不安であったり、家族だけで世話が出来ないかもしれないと心配がある場合には特に大きなメリットがあります。
訪問看護は看護師が主治医の指示を受けた上で、必要な世話やサポート、医療行為の補助を行っていきます。病気の悪化を防ぐことや、病状の管理、障害や病気の回復を目指すことが目標となります。
訪問看護に訪れる看護師は専門的な知識を有しているために、家族が心配や不安になった時にもしっかりと受け止めてた上で、適切なアドバイスをすることも出来ます。
また、訪問看護は自宅で治療や支援を受けたい時だけでなく、住み慣れた所で最期を迎えたいという人にも適しており、しっかりとサポートを行うことが出来ますので、年齢を問わず現在多くの利用者がいます。
2.訪問看護の歴史
訪問看護という制度を行うために、今まで様々な制度を改定し現在へ至ります。訪問看護の歴史としては、1983年に施行された『老人保健法』が基盤となり訪問看護へ第一歩を踏み出します。『老人保健法』では、国民の老後の健康保持や医療を確保するために、疾病の予防や治療、トレーニングといった保健事業を行うことで、国民の健康増進や老人の福祉の増進を図ることを目的とされました。その後、1992年には老人保健法が改訂され『老人訪問看護制度』が作られ、老人看護訪問ステーションが設置されました。当時は70歳以上が対象になっていましたが、1994年に健康保険法に「訪問看護制度」が追加され在宅医療に関して明文化され、高齢者だけでなく在宅での医療や療養を受けたいと希望する全ての人が対象に変わっていきます。
そして、『介護保険制度』が設立され3年後の2000年には『介護保険制度』がスタートします。このあたりから在宅医療を希望する人も増加していき、人工呼吸療法といった病院内でしか医療行為も、訪問介護サービスを受けて在宅で行うことが可能となりました。入院よりも自宅での医療を希望する人も多くなっていき、訪問看護も徐々に浸透していくこととなります。
3.訪問看護の対象になる人は大人だけではない
先程紹介したように、訪問看護は以前は高齢者のみしか受けることが出来なかったサービスですが、訪問看護制度が設置されたことにより、年齢による制限が排除され、どの年齢であっても訪問看護サービスを受けることが出来るようになりました。しかし、当然何も看護が必要ではない人が風邪といった一次的な病気などで訪問看護サービスを受けることは出来ません。
訪問看護の対象となるのは、何らかの疾病や障害があり、自宅で療養をしながら生活を送っている人になります。訪問看護を受けたいと思い、訪問看護事業所へ直接頼んでも訪問看護を受けることは出来ず、必ず主治医による訪問看護指示書が必要になります。つまり、主治医が訪問看護が必要である、と判断し訪問看護を指示した場合に受けることが出来るということになります。
対象となる年齢は赤ちゃんから高齢者に至るまで幅広くなり、訪問看護を希望したり医師が判断した場合には可能なことが増えてきました。また、訪問看護を受ける本人だけでなく、医療行為などに対して心配や不安がある家族に対してもしっかりとサポートを行ってくれ介護相談や健康管理に対する悩みにも応じてくれます。
訪問看護と聞くと、重篤な病気であったりベッドから動くことが出来ない人だけしか受けることが出来ないのではないかというイメージがありますが、実は主治医が必要であると判断すれば病状の程度の高低はあまり関係ありません。対象となる制限は厳しくはなく、要介護認定を受けていなかったり、往診に来てもらっていなくても訪問看護を受けることは十分に可能です。
訪問看護を受ける際のポイントは、疾病や障害により『継続的』な看護が必要であるか否かということです。自宅で『継続的』な看護が必要であることが大切ですので、点滴や風邪薬を『一時的』に飲む、打つために訪問看護を受けることは出来ません。しかし、一型糖尿病でインスリン注射を導入し行う時に、自宅で注射やインスリンの量の管理が不安や難しいのではないかとなった時には、看護師による指導を自宅で受けることが出来ます。
他にも高齢者でかつ、単身での住まいの場合であれば内服薬などの管理を行うために訪問看護を受けることは可能です。訪問看護は利用制限が厳しいのではないかというイメージが強いために、受けることが出来る人や、負担を軽減することが出来るのにも関わらず、制度内容の認知度が低いために利用することすら気が付かないというケースも多くあります。
訪問看護を受けることは、在宅で医療を自分で行う人にとっても、家族の医療処置を行う人にとっても、心身共に心強い存在です。身体的な負担だけでなく精神的な負担を減らすことも出来ますので、訪問看護を受けることが出来るのか、訪問看護を利用したいと感じた時には、主治医やソーシャルワーカーなどに相談してみることが大切です。
4.訪問看護を受けることが出来るサービスは多岐に渡る
『継続的』な看護が必要な場合に受けることが出来る訪問看護ですが、いったいどのようなサービスを受けることが出来るのでしょうか?
訪問看護のサービスとしては以下になります。
・健康状態の管理 ・自宅療養の世話や介助
・医療処置や医療機器の管理 ・ターミナル(終末期)の看護
・介護に関する相談等 ・自宅でのリハビリテーション
・精神疾患の看護 ・家族や本人に対する心理的な支援
・医療的なケアと病状の回復、悪化防止 ・ 認知症の看護
・重度心身障害者の看護 等
訪問看護では、医療的な処置や管理はもちろんのこと、精神的な面での支援であったり、リハビリテーションや介護や看護に関する相談にも応じることが出来ます。それぞれのサービスについて紹介していきますので、参考にしてください。
健康状態の管理
訪問看護を行う時には、健康状態の管理をしっかりと行い、病気の再発や早期発見に努めます。健康状態の管理としては、血圧や体温、脈拍の測定から、問診による精神面の状態、皮膚や栄養状態、睡眠に関してなど総合的に観察を行います。健康状態の管理や把握を行っていくことで、日常生活に得異常を起こすものがないかや、病状に小さな変化があった場合でもすぐに対応することが出来ます。
自宅療養の世話や介助
障害や病状によっては、排泄や入浴も助けなしには難しいことがあります。また、家族の助けによる看護を行っていても慣れるまで上手く出来ないことがありますので、自宅での療養を行う時に必要な世話やサポートを行ってくれます。具体的な例としては、清拭や入浴介助、排泄管理やストーマ(人工肛門)の管理が挙げられます。他にも、自宅で療養を行う際に便利な福祉機器や用具について紹介したり、整備をサポートすることもあります。
医療処置や医療機器の管理
訪問看護と聞いて多くの人が想像する内容としては、この医療処置や医療機器の管理があります。自宅療養を行っている人の中には、酸素注入や人工呼吸器といった医療機器を使用しなくてはならない人も多くいます。そういった方のために、訪問看護を行い医療機器や使用している人の細かいケアを行っていきます。具体的な例としては、経管栄養の管理や留置カテーテルの管理、酸素療法の管理、胃ろうチューブの管理などがあります。
他にも医師が指示する点滴や創傷処置、褥瘡(じょくそう)といった医療行為も行っていき病状の管理や状態を確認していきます。自宅療養では入院をしている時のように、医療機器や医療行為を細かく管理することが家族のみでは難しくなりますし、判断のミスが緊急事態を引き起こしてしまう危険もあります。医療処置や管理を行っていくことで、早期発見を行い未然に防ぐことに繋がります。
また、単身で暮らしている高齢者に対しての服薬を管理、指導を行ったり、急変などに対応することも出来ます。医療処置や医療機器の管理は、訪問看護の中でもメインのサービス内容となります。
ターミナル(終末期)の看護
ターミナルケアも訪問看護での重要な内容の1つです。ターミナルケアとは、がんなどによって余命がわずかになった人に対して行う医療的な行為のことを指します。余命が幾ばくも無いからといって生活の質を落としたりせず、痛みや倦怠感の緩和をしたり、本人の希望に出来る限りそって生活を行っていけるように調節をして看護を行います。
また、看取る時に関しての相談やアドバイスや家族の精神的な支援も合わせておこなっていきます。
介護に関する相談等
看護に合わせて介護が加わると、家族にとっては大きな負担になることがあります。介護に慣れていたり、従事している人であれば介護方法もわかりますが、多くの人は自宅療養になった時にどのような介護を行えばよいかわかりませんよね。そういった時も、訪問看護を利用することが出来ます。そして、介護者に対する共感や相談を行っていくと共に、患者の会や家族会といった相談窓口の紹介も適切に行っていきます。
自宅でのリハビリテーション
自宅で療養している時にはリハビリを行うことも多々あります。可動域を広げるための訓練や、筋力増強運動などのトレーニングを行っていくことで、病状の回復や筋力回復を目指します。また、特別な運動を行うリハビリだけでなく、自宅で使用してる福祉機器(ポータブルトイレ、電動ベッド、自助具など)を自分で活用できるように使用方法の伝授やサポートを行っていきます。リハビリを行う時には主治医と理学療法士による連携でトレーニング内容を決定し、効果的なリハビリ計画を立て実行します。
精神疾患の看護
うつや不安障害といった、精神的な疾患の看護も訪問看護の大きな支援の1つです。精神状態を安定するために睡眠や食事といった基本的な生活の調節を行っていくと共に、コミュニケーションを図りながら自立支援を行っていきます。また、自宅療養だと服薬管理が本人に任せられるので過剰摂取を予防したり、デイケアや外来通院といった医療を継続的に行っていくサポートを行い、社会復帰や就労を目指していきます。
家族や本人に対する心理的な支援
自宅療養では、本人だけでなく家族にも負担が大きい時があります。その負担を軽減することも訪問看護の支援内容になります。精神状態や心理的な安定をはかるために、本人や家族の希望する医療や目標に沿った支援を行っていったり、日常生活のリズムを保つように調整を行います。家族や本人の意思を最大限に尊重した支援を行っていきます。
入院や退院の時のサポート
退院した後は、訪問看護による医療管理や健康状態の把握は必要不可欠です。ですので、しっかりと主治医からの指示を行っていけるように、病院施設等との連携は密に行います。特に退院の時は医療処置やケア内容の引継ぎを行い退院をスムーズに行っていきます。相談支援専門員やケアマネージャーなどとも連携をはかることで、自宅療養での看護を円滑に進めることが出来ます。また自宅療養であったものの、入院をしなければならない時も訪問看護による引継ぎなどを行っていきます。
認知症の看護
認知症の看護では、中核症状や認知症の行動や心理状況をしっかりと把握した上で支援していきます。睡眠や食事のバランスが崩れがちになりますので、しっかりとリズムを整えていくことも大切です。また、認知症の場合だと家族に大きな負担がいきやすいので、家族といった介護者に対するサポートも細かく行います。認知症による事故等を防止するために、環境の整備も合わせて行います。
重度心身障害者の看護
重度心身障害者では医療行為が必要な場合が多いために、訪問看護を多く利用することになります。留置カテーテルや吸引といった医療ケア・使用者のケアから、家族に対するサポート、障害や発達過程に最適な看護と、幅広く支援していくことが出来ます。
また、障碍者手帳や医療費の助成といった公的なサービスに関しても詳しく教えてくれることも、支援内容の1つです。 現在は重度心身障害者も様々な方法で学習を行うことが出来るようになりましたので、教育機関と連携を図りサポートを行っていきます。
このように、ひとえに訪問看護といっても実はたくさんの種類の支援方法があります。幅広いニーズに応えることが出来るのが訪問看護の魅力の1つですので、住み慣れた安心できる自宅で療養したい、と感じた場合には一度訪問看護の支援を受けることが出来るかどうかを相談してみることが大切です。
5.まとめ
以前は年齢制限があったものの、現在は年齢制限はなく赤ちゃんから高齢者に至るまで病気や障害により主治医が自宅で看護が必要と判断した場合には誰でも受けることが出来る訪問看護。病気や障害の医療的な支援やサポートだけではなく、看護する側である家族の心理的サポートや入退院をスムーズ行う役割など多岐に渡ります。訪問看護を利用することで、本人だけでなく家族の負担も減らしたり、不安や心配に感じることにも丁寧に教えてもらったり助言してもらうことが出来ます。
訪問看護は重度の病気や障害の人しか利用できないのではないかというイメージが強いために、本当であれば利用することが出来る人であっても制度の内容を知らないために、利用できるのにも関わらずサポートやサービスを受けることが出来ていない人が大勢います。自宅療養を行う時には、訪問看護を利用することが出来るのかと一度主治医やソーシャルワーカーに一度相談してみましょう。