採用
knowledge

学習障害におけるディスカリキュアとは?定義や特性について解説

学習面での発達に偏りがある学習障害(LD)の中でも、特に計算や図形に対して困難がある特性のことを『ディスカリキュア』と言います。ディスカリキュアは、小学校低学年では気が付くことが難しくても、学年が上がっていくについれて算数に対しての困難さが明らかになってきます。

では、ディスカリキュアとはどのような症状で現れてくるのでしょうか?ディスカリキュアと上手く付き合っていくための方法も合わせて紹介します。

1.学習障害(LD)は発達障がいの一種

自閉症スペクトラムや注意欠陥多動性障害(ADHD)といった発達障がいの認知度が近年大幅にアップしてきているので、『発達障害』という言葉を聞いたことがあるという人は多いでしょう。その、発達障害の中でも小学校に就学以降で発見されやすいのが学習障害(LD)です。

学習障害はLearing Disabilityといい、LDと呼ばれます。学習障害は知的障害と同じように、学習面に困難なことが生じてしまう障がいですが、知的障害のように学習面の全般に遅れがあるのではありません。学習障害は『聞く、読む、話す、書く、計算する、推論する』という6つのスキルの内、1つないし2つ以上が年齢相当よりも低く困難が生じてしまう時に診断されます。

学習障害いの定義は以下になります。

学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障がいがあると推定されるが、視覚障害、聴覚障障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

(引用:文部科学省「学習障害児に対する指導について」)

他の発達障害と同様に、なんらかの脳の中枢神経に機能障害があることはわかっていますが、根本的な原因の解明や治療法は確立されていません。学習障害といっても、個人差があり、どのスキルに困難が生じるかはそれぞれ異なります。

学習障害は全般的な知的な遅れはありませんが、『聞く、読む、話す、書く、計算する、推論する』の特定の学習に関して1~2年程度の遅れがあります。つまり、計算に関して困難がある場合であれば、小学校3年生の時に小学校1年生で習う簡単な足し算や引き算の計算が出来ない場合に学習障害が疑われます。学習障害は生まれつきの障がいですが、他の発達障がいに比べても発見するには時間がかかることが特徴で、小学校に入学し本格的な学習に入らなければ気が付くことが出来ません。

中には軽度であれば、苦手として片付けられてしまうために「努力が足りない」「勉強不足だ」と叱責されることがあります。親や教師が気が付かないと見過ごされてしまい、自分の中で苦手意識が強くなってしまい自己否定感を強くしてしまう可能性があります。学習障害は気が付かないと支援が必要ないと判断されてしまい、必要なサポートを受けられないことがあります。学習障害を早期発見し、困難な事に関しての指導や支援を受けていくことが大切です。

2.学習障害の中の『ディスカリキュア』とは?

学習障害には大きく分けて読字障害、書字障害、算数障害があります。

・読字障害…ひらがなの読み書きが苦手であったり、文字を読んだり理解することが困難である

・書字障害…黒板に書かれた文字を書き写したり、自分の思いを紙に書くのが困難である

・算数障害…数の概念を理解しづらく簡単な計算が難しかったり、文章問題を解くことが困難である

このように、学習障害は大きく分けると3つになりますが、それぞれ大まかな特性はあるものの、個人差が大きく特性も様々です。必ずしも、上記の区分に当てはまるのではなく、書字障害と読字障害があったり障がいの程度も異なることを理解しておきましょう。

この中でも算数障害いのことをディスカリキュアと言い、算数に関して著しく困難なことを言います。ディスカリキュアの場合は、文章などの読解力も、書字も問題がないことが多くなるので、気が付くのが難しくなります。ディスカリキュアといった学習障害の場合、他の発達障がいのようにコミュニケーション能力が不足していることもなく、強いこだわりや環境に馴染みにくいという特性もないので、良い人間関係を築くことが出来ますし、他の学習でも困難な面は見当たらないので一見問題がなく学校生活を送っているように見えます。しかし、算数や計算を行う時には同学年の事を理解することは難しくなり、苦戦してしまうようになります。

ディスカリキュアは、低学年の時には「数を覚えるのは苦手なのか」と感じる程度ですが、学年が上がるにつれてその困難さは顕著に表れるようになります。問題が複雑になってくる高学年になると、理解することがかなり難しくなりディスカリキュアではないかと疑うようになります。ディスカリキュアでは、最初の足し算の繰り上げ計算につまづいてしまうことが多いですが、低学年にはよくあることですので、気が付かないけケースがあります。しかし、学習障害も早期に見つけてサポートしていくことで、困難を緩和することが出来るようになりますので、理解が出来にくい分野があると思った場合には担任の教員や自治体の相談窓口へ相談をすることが大切です。

3.ディスカリキュアの主な症状とは

ディスカリキュアの代表的な症状としては

・簡単な計算の繰り上げや繰り下がりが出来ない

・数や記号を理解しずらい

・数の大小の区別がつきにくい

・曖昧な文章問題が理解しずらい

・図形やグラフを解読するのが苦手

というものが挙げられます。算数は学校教育だけでなく、社会に出ても様々な場面で必要なスキルになります。買い物や仕事、日常生活でも簡単な計算を使用しますので、ディスカリキュアだと生活面でもつまづきが生じてしまう可能性があります。ディスカリキュアに限らず発達障がいは早期発見を行いトレーニングやサポートを行っていくことが大切です。ディスカリキュアの場合、小学校3年生以降になると、簡単な計算式だけでなく高度な文章問題や計算に進んでいきます。単なる計算が多い低学年ではなんとかクリアしていけたものの、小学校3年生以降はつまづきが顕著に表れてくることがありますので、ディスカリキュアの可能性を担任や保護者が気が付くことがあります。

ディスカリキュアの診断は医療機関で専門的な検査を受けて診断を行います。アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアルである『DSM-5』や、世界保健機関の国際疾患分類第ICD-10』の診断基準を元に行われ、全体的な知的な遅れや、脳の異常がないかなどを総合的に調べていきます。

ディスカリキュアの場合、『数の感覚』『数学的事実の記憶』『計算の正確さまたは流暢性』『数学的数理の正確さ』の傾向が高いと言えます。

4.ディスカリキュアかもしれないと感じたら

算数で困難やつまづきが生じている場合、程度の差はあれどディスカリキュアかもしれないと感じることがあるかもしれません。そんな時は、自治体の発達相談窓口や発達障がいの専門施設に相談してみましょう。また、担任などからディスカリキュアの可能性があると言われた場合には、相談すべき場所などを細かく教えてもらうことが出来ますので、その指示に従って問い合わせするのも良いです。保健センターや、子育て支援センター、児童発達支援事業所などであれば、無料で相談することが出来ますので、日ごろの困難なことや、ディスカリキュアの疑いを感じることを相談すると、次にどのようなことをすればよいかを丁寧に教えてくれます。

ディスカリキュアの場合、総合的な知的な遅れ等がないかを調べなければなりませんので脳波検査を行うことになります。他にも成育歴や、日常生活での困りごと、養育歴など知能検査や心理検査といった多角的、総合的な診断を行います。 確定診断でディスカリキュアと判明した場合には、療育や通級指導教室などどのようなサポートが必要かを相談し今後の指導へ活かすことが出来ます。

5.ディスカリキュアと上手く付き合っていくために

学習障害の1つであるディスカリキュアは、小学校へ進学し本格的な学習が始まらない限り気が付くことが出来ません。低学年で気が付くことが出来ずに、そのまま成長していった時に、周囲の理解がなく、本人もディスカリキュアとわからないままだと、勉強不足や努力が足りないと周囲の人から叱責されたり、自分自身でも否定的な感情を生みだしてしまいます。数や図形が苦手となるディスカリキュアの場合、困難な状態を放置しておくと将来の社会生活にも支障を及ぼしてしまう可能性があるので、上手に付き合っていく必要があります。

では、ディスカリキュアと上手く付き合っていくためにはどのような対処をすれば良いのでしょうか?

①本人が出来る範囲や出来ない範囲をしっかりと把握する

ディスカリキュアに限らず発達障がい全般に言えますが、自分にとって出来ることや得意なことと、苦手とすることや困難に感じることをきちんと整理して把握しておくことが大切です。自分自身の特性を理解していかなければ、本当に必要なサポートやトレーニングを受けることが出来ません。必要なサポートを受けたり、困難なことを改善するためにトレーニングを行っていくことで、自立した生活を送ったりライフスキルを向上させることが出来ます。

自分自身が困難なことを把握しておくと、出来ない問題や壁にぶつかった時に周囲に協力や助けを求めることも出来ますし、周囲へ理解を求めることで本当に必要は支援を受けることが出来ます。

ディスカリキュアという学習障害があったとしても、数字が苦手な子、図形が苦手な子というようにそれぞれ苦手な内容や理解出来る程度は異なります。ディスカリキュアであるから、これは出来ないだろうと勝手に決めるのではなく、子どもが出来ること、出来ないことを親や先生だけでなく本人もきちんと理解し現状把握に努める必要があります。

②出来たことはたくさん褒めよう

ディスカリキュアでの苦手分野は、自分がどうしてもクリアすることが出来ないために自己肯定感が低かったり、たくさん叱責されてきたために算数や数学が嫌いになってしまうことがあります。そうならないためにも、その子が算数や計算で出来ることがあった場合にはその都度たくさん褒めることが大切です。出来ない状態で一番辛いのは、ディスカリキュアを抱えている本人です。頭ごなしに叱ってしまうと自信を喪失してしまったり、否定的になってしまいます。出来ないことを叱るのではなく、出来たことや努力している姿勢をたくさん褒めましょう。

③子どもの特性をしっかりと把握すると理解し一人で抱え込まない

学習障害はコミュニケーション能力や強いこだわりといった、発達障がいに多くみられる特性はありません。一部の学習面に関して著しく困難な状態であるので、一見発達障がいではなく単なる苦手な科目があるというだけに感じてしまいます。しかし、他の子どもには理解出来る内容であっても、学習障害の場合だと理解することが出来ないので無理に教え込んでも効果は低くなります。

大切なことはその子の特性をしっかりと理解した上で、その子に合った方法でディスカリキュアのサポートや指導を行っていくことです。ディスカリキュアなどの学習障害は正確な知識を持ってサポートするのが大切です。そのためにも、専門的な機関に相談をしたり助言を求めることは非常に大切です。一人で抱え込むのではなく、難しい、わからないことがあれば聞いてつまづきの原因を把握しサポートへ活かしましょう。

また、発達障害者支援センターや療育、放課後デイなどを利用するようになると、同じディスカリキュアの保護者との関係も増えていきます。同じ悩みを共有したり情報交換できるような関係があると、精神的な負担を減らすことができたり、家庭内での悩みや相談も気軽に出来るようになります。よき理解者やサポートを共にしてくれる相手がいることで、子どもへの接し方や深い理解をすることが出来るようになるでしょう。

6.まとめ

ディスカリキュアも他の発達障がいと同様に、早期発見が非常に重要になります。学校の教諭と家庭、施設がしっかりと連携をはかりつつ、その子をサポートしたり最適な指導法を見つけていくことが、算数に苦手意識を持たないことへ繋がります。

ディスカリキュアといっても、計算が苦手なのか、図形が理解しづらいのかなど、その程度は異なります。文章問題が難しい場合には、図案化してみたり、学習ソフトなどを利用するなど、工夫してわかりやすく伝えていくと、自分でも『出来た』という自信へ繋げていくことが出来ます。

算数が特に理解しづらいディスカリキュアですが、全く理解が出来ないのではありません。しっかりと時間をかけて根気よくサポートしていくことで、少しずつでも苦手意識や困難な事を緩和することが出来ます。そのためにも、早期発見からサポートやトレーニングをしっかりと行っていくことが大切です。

< 前の記事 一覧へ戻る