学校へ自分で行くようになると、どんどん行動範囲が広がっていきます。また、友達と一緒に外で遊ぶことも多くなり、そうなると約束の時間や場所を決めて合流することになります。そんな時に必要となるのが、時間通りに到着する力です。
では、外出する時に必要となるライフスキルと合わせて人に助けを求めるライフスキルについて解説します。
1、外出する時に必要となるライフスキルと合わせて習得したい援助を求めるライフスキル
中学校を卒業したあたりから、行動範囲がぐんと広がっていきます。高校生になると通学に電車やバスを使うことも多くなり、また友達と会うのもお互いの中間地点で会うことが多くなるので、小さい時のように狭い行動範囲ではなくなります。待ち合わせ場所を決めて、その場所まで行く手順や方法、所要時間などをしっかりと考えた上で、何時に自宅を出ればよいかを考えますが、発達障害がある子はその総合的な情報を整理することが苦手なことがあります。しかし、時間通りに待ち合わせ場所に行くというスキルは、特に仕事をし始めた時に特に大切になりますので、しっかりと身につけておきたいライフスキルです。
また、そのライフスキルと合わせて人に助けを求められるスキルも習得しておくと、困った時やパニックになった時に人に助けを求め自分で修正することが出来るようになります。自分ひとりで解決するのではなく、周りの人に助けてもらうことを覚えることも、非常に重要です。自分だけで頑張るのではなく、難しいところや苦手なことは協力してもらっても良いことを伝えていきましょう。
2、予定通りの場所、時間に行動するライフスキル・トレーニングとは
私たちは誰かと約束をした時には、予定時刻や場所を確認したのち、予定時刻までにいく交通手段や道順を確認してから外出をしますよね。しかし、発達障害の子にとってはこの約束の時間までに決められた場所に行くということが苦手なことが多くなります。学校行事や大事な約束で特定の場所で待ち合わせをしていても、道に迷ってしまったり、交通機関を利用する際にパニックになって遅刻してしまうことや、そもそも場所までたどり着けない場合があります。
障害の特性について理解してくれている人との待ち合わせであれば良いですが、発達障害について理解されていないと『約束を守ることが出来ないルーズな人』というイメージで捉えられてしまったり、叱責されてしまいます。しかし、発達障害の人にとっては情報を処理することが苦手という特性があるので、どうしても移動手段や時間などの多くの情報を頭の中で整理することが苦手です。
見たり聞いたりした情報から必要なものを残し、いらない情報を頭から決して計画的に行動することが出来ないことが多いので目的地まで到着することが難しくなります。ですので、小さい頃から外出に関するライフスキル・トレーニングを行っていくことが大切です。
ひとえに発達障害といってもそれぞれの障害によって外出に関するトラブルは異なり、ADHD(注意欠陥多動性障害)の子であれば不注意の特性から、道順などは把握していても降りる駅などを見落としがちで間違った場所を目指してしまったり、LD(限局性学習障害)であれば地図を見ることが苦手な場合があり道にある地図を見ても自分の場所から目的地までの経路がわからなくなってしまう、ASD(自閉症スペクトラム)であれば、こだわりが強く社会性が伸びていないことが多いので、約束の時間に少しでも遅れるとパニックになってしまったり、電車などがトラブルで止まってしまうとどうしてよいのかわからなくなり臨機応変に対応することが難しいということがあります。発達障害の特性によって、それぞれ苦手とする場所が異なってくることがわかります。
現在はスマートフォンなどにGPSが搭載されているので、簡単に目的地まで移動することが出来ますが、発達障害の子にとっては自分がまずどこにいるのかわからなかったり、GPSの使い方が理解出来にくいこともあります。外出するスキルを総合的にトレーニングにしていく必要があります。
では、外出するときのライフスキル・トレーニングとはどのように実践していけば良いのでしょうか?
まずは、外出する範囲を特定の地域のみにしてから、トレーニングをスタートしましょう。発達障害の子にとって臨機応変に対応する、ということはかなり難しくなりますので、基本に忠実になりながらも目的地まで到着出来るようになることで、外出するスキルに繋がっていきます。自宅の周りにある郵便局や学校などの建物をまずは目印として、何度もその場所まで行けるようになることで成功体験が増えていき、スキルが定着しやすくなります。
■外出のライフスキル・トレーニング
①基準点を決めて迷ったら戻ることを覚えていく
先ほど述べたように、自宅周辺で子供にとってわかりやすい基準点を決めておきます。郵便局や学校、大きな銀行など目印になりかつ、簡単に基準点が移転しにくい場所を選びましょう。そして、道に迷ったらどの基準点でも良いのでそこまで戻って再スタートをきる、という風に決めておくと迷った時にも冷静に対処するスキルが身につけられます。
②目的地までは絵や分で示すとわかりやすい
発達障害の子にとっては目的地まで、口頭で説明しても情報を中々自分のものとして処理することが出来ません。ですので、目的地までの道筋などは文字や絵、写真で箇条書きにしていくと良いでしょう。冊子状にしたり、ファイルに閉じておくとわかりやすいです。
箇条書きにした上で、よく利用する施設までの道順を基本の道順として覚えてもらいましょう。その基本の道順を元にして目的地をどんどん遠くに設定していくと、わかりやすいです。行けるようになった場所等には、シールを貼ったりはんこを押したりして、自分がどこまでいけるようになったかを見えるようにしていくと自信に繋がっていきます。
③電車やバスを利用する場合には前もってシミュレートしておこう
自宅周辺の移動に慣れてきたら、徐々に徒歩や自転車以外の移動手段を利用することに慣れるステップに移行しましょう。電車やバスを利用することで、大幅に行動範囲が広がりますし、時間などを気にしながら移動するスキルを身に付けることが出来るようになります。しかし、初めての場所やものが苦手な発達障害の子にとっては電車やバスに1人で乗ることに対して抵抗がある場合があります。そんなときには、一度一緒に電車やバスに乗って慣らしていったり、電車やバスに親が先に乗って写真や動画を撮っておき、先にその映像を見せることで自分の頭の中でイメージすることが出来るので、比較的抵抗を少なくすることが出来ます。
また、公共交通機関を利用する場合には乗るまでの方法から、マナーなどもしっかりと覚えておかなければなりません。目的までのお金を払って切符を買う、時間や乗り場を確認して場所へ行く、降りる駅を確認しながら静かに乗る、目的地の駅へ着いたら改札で切符を通す、というようにある程度基準がありますので、それを箇条書きにしてマニュアル化しましょう。
ルールやマナーについても同様で、電車の乗り方のページにルールやマナーを一緒に書いておきます。決まった公共交通機関を利用するときには、予めそのページを読み理解したことを確認しながら外出させるようにしましょう。
④困った場合にどうすべきかを話し合っておく
親と一緒に行動するのではなく、電車やバスを利用して移動するようになると外ではどのような行動をしているのかがわからなくなります。ですので、もしかしたら外出先で何かトラブルが発生してしまう可能性があります。そんなときにはどうしたらよいかも一緒に考えていきましょう。どの電車に乗ればよいかなどであれば駅員に助けを求めたり、道で迷子になったらどのように声をかけたらよいかなど、あらゆる可能性を考えておくことが大切です。
外出先でパニックになってしまった時に、誰も助けてもらえないと目的の場所にたどり着けないどころか、迷子になってしまう可能性もあります。
外出するときには行き場等の情報を書いた紙と、連絡先を書いた紙を持たせて困った時に誰かに見せるように伝えたり、助けを求める時にはどうすれば良いかを子供に伝えてきましょう。困った時の対処例としては以下になります。子供に口頭で伝えるだけでなく、箇条書きしておき何度も確認できるようにしておくとわかりやすくなります。
・混雑している時には降りるときや乗るときに『すみません』という言葉を言う
・目的地がわからなくなったら近くの大人に『すみません、ここへ行きたいです』と紙を見せる等
目的の場所へ時間通りに考えて行動することが出来るようになると、社会に出た時や学生生活でも大きなトラブルに発展せずにすみます。
このように、外出する時には多くの情報を整理し、自分の情報に置き換えてから出発することが大切になります。このライフスキルは社会に出た時にとても重要になりますので、基本になるマニュアルを作った上でトレーニングをしていきましょう。
3、人に助けを求めるライフスキル・トレーニングとは
発達障害の子の多くが対人関係の悩みを抱えています。私たちは自然と言ってはいけないことや、自分の気持ちや言いたいことをセーブすることが成長していくにつれて少なからず出来るようになりますが、発達障害の子は周りの空気を読んで発言をしたり自分の気持ちや言いたいことを抑えることが苦手です。ですので、衝動的に叩いてしまったり不用意に相手の悪口を言ってしまうことで、相手から距離を置かれてしまったり、喧嘩に発展してしまう可能性があります。その場では反省しますがまた同じことを繰り返してしまいますので、特に対人関係が敏感な思春期に差し掛かると、無視されたりいじめが起きてしまうこともあります。
人と付き合っていくソーシャルスキルは、充実した生活を送っていくには必要不可欠で特に学生生活では大きなウェイトを占めています。集団生活が基本となる学生生活やチームワークが重要になる社会に出たときに苦労することが多く、対人関係で失敗が続くことで精神的につらい思いをしてしまうことも考えられます。人と良い関係を築いていくソーシャルスキルを小さい頃からトレーニングをしていき、人とうまく付き合っていくライフスキルとして習得するようになることが大切です。
発達障害の特性として『人付き合いが苦手』ということが多くありますが、それぞれの発達障害によってその特性には違いがあります。ADHDの場合だと自分の気持ちを抑えられない衝動性が強いため、特に対人関係で悩むことが多くなります。また、してはいけないとわかっていても、ついカッとして叩いてしまったり、暴言を吐いてしまうためにトラブルに繋がってしまうことがあります。
自閉症スペクトラムの場合だと、もともとの特性として『対人関係の困難さ』がありますので、基本的に自然に人付き合いが上手くなることが難しくなります。人の言う冗談を真に受けてしまい怒ってしまったり、相手に傷つく言葉をストレートに言ってしまったりして相手が怒ってしまうこともありますので、対人関係で悩むことが多くなります。
発達障害の子にとって集団生活の中で周りと一緒に行動をしたり、足並みを揃えることはストレスを感じてしまいます。また、自分は悪意がなく言った言葉で相手が傷ついてしまったり、トラブルになった時に叱責されることが多く、友達とうまく付き合えないなど集団生活での失敗や衝突、トラブルが原因で学校や集団に対して苦手意識が強くなってしまいます。子供の障害の特性をしっかりと理解した上で、無理をさせないようにしながらトレーニングをしていくことが大切です
対人関係のライフスキル・トレーニングとしてはまず自分ひとりで全てを解決しないようにすることを覚えることがポイントです。出来ることは自分で行い、出来ないことは人に助けを求めていくことで、不必要な失敗経験が増えずに済みますし大きなトラブルに発展することを防ぐことも出来ます。
■対人関係のライフスキル・トレーニング例
①人に頼むときのマナーやルールを教えていく
人に助けを求めたり協力をお願いするライフスキルとして、マナーやルールを伝えていきます。対人関係のライフスキルは多くありますが、中でも発達障害の子の特性を考えた上で覚えやすく実践しやすいマナーやルールを率先して教えていきましょう。こちらも、他のライフスキル・トレーニングと同様に文字や絵にしてマニュアル化していくことで、覚えやすくなります。
【役立つマナーやルール】
借りる
・必ず『すみません、借りてもいいですか』と聞くようにする
・承諾を得てからしか借りないようにする
返す
・使う前と同じ状態にする
・『ありがとうございました』と言って渡す
質問する
・困った時には周りの人に協力をお願いする
・『すみません、教えてください』と聞き解決法を聞く
謝る
・自分がしてしまったことや間違えたことは必ず謝るようにする
・『すみません、間違えました』と謝り対処法を聞く
伝える
・周りの話や行動を遮って発言したいときは『すみません』という
頼る
・どうすれば良いかわからない時には『すみません、どうすれば良いですか』と聞き状況を知るようにする
しかし、発達障害によっては自分から自分の思っていることや助けてほしいことを言葉にしづらい特性の場合もあります。そういった時には、絵や写真を使用したカードを用意しておき、助けてほしい内容のカードを見せて伝える方法もあります。そうすることで、周りの大人や先生だけでなく友達にも理解されやすくなり気付いてもらうことが出来ます。
発達障害の子供にとって人に合わせたり、言葉の真意を理解することはとても難しい場合が多くあります。衝動的になってしまったり、悪意のない言葉で相手を怒らせてしまうこともあり、対人関係が上手くいかないことで精神的につらい思いをしてしまう事が多いので、小さい時から無理をしない程度にトレーニングやサポートを行っていきましょう。
自分には難しい行動の場合であったり、わからない時には一人で悩みパニックになるのではなく周りの人に助けを求めるというスキルを身につけることで、周りの人にも自分について理解してもらえるようになったり、本人も対人関係での失敗を少なくすることが出来るようになります。
4、まとめ
外出する時に自分で目的地までの行く道筋を考えたり、予定時間を逆算して考えることは意外とたくさんの情報を処理し、考える力が必要になります。しかし、このライフスキルを習得していないと社会人になった時や友人との信頼関係を損なってしまう可能性があります。また、発達障害がある子だけでなく、誰でも時には人に頼ることや援助を求めるスキルも高めていくことで、無理をしすぎたりストレスを減らすことが出来るようになります。
どちらのライフスキルも一時的なスキルではなく、長い人生の中で大切なライフスキルになりますので、小さい時から少しずつトレーニングやサポートを行っていくことが大切です。