虐待と聞くとどんなイメージを思い浮かべますか?
虐待と聞くだけで、ぞっと身を引いてしまう方もおられるかもしれません。
あるいは「虐待は力の強い人の暴力行為」と思っていませんか?
虐待は、それだけではないのです。
他人の生活に踏み込まざるを得ない介護職であれば、誰にとっても虐待は身近なことなのです。
このことを意識していくか、そうでないかで随分と仕事に差がでます。
今回は、訪問介護における虐待について解説します。
高齢者虐待の現状と要因
厚生労働省の行った高齢者虐待の調査結果では、訪問介護職を含む介護従事者による高齢者虐待と認められた件数は856件(令和4年度)となっています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000196989_00025.html(令和4年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果)
虐待分類
虐待防止法に定義されている虐待には、以下のようなことがあります。
身体的虐待
・叩く、殴る、蹴る
・部屋に閉じ込める
・食事を無理やり口に入れる
・身体を物に縛り付けて拘束する
放棄・放任(ネグレクト)
・長期間、入浴させない
・十分な食事を与えない
・劣悪な環境で生活させる
・必要な医療・介護サービスの利用させない
経済的虐待
・同意なしに年金・預貯金などを使う
・資金や資産をだまし取る
・資産(家・土地など)を無断で売却する
・本人の金銭使用を理由なく制限する
心理的虐待
・怒鳴る、ののしる、悪口を言う
・子どものように、あるいは非人道的にように扱う
・意図的な無視を行う
性的虐待
・同意なしに性的な行為を強要する
・下半身を裸にして放置する
訪問介護におこりがちな虐待
訪問介護サービスを提供現場にも、残念ながら虐待に結びつきやすい要因は潜んでいます。
どんな場面で訪問介護職による虐待が起こりがちか、そしてその虐待の芽を早期に摘むためにはどうすればいいでしょうか。
訪問介護の特徴として、
・限られた時間に業務を閉ざされた空間で行われる
・利用者との距離が近く、親密性が高まる
・家族に物を言いにくい
というようなことが、あります。
そのため、
・服に脱衣介助において、急いで服を脱がせようとし、強い力で利用者の腕をつかんでしまい傷やあざを作ってしまう
・排泄ケア中であったが介護拒否をされたため、利用者の下半身が露出されたまま放置してしまう
・よかれと思って、お金の使い方に指図してしまう
・「だらしないから独り身なのよ」など、利用者の人格を否定する言動をしてしまう
・家族が利用者にひどい言動をしているのを見過ごしてしまう
などのような虐待が起きやすいと考えられます。
先の調査では、居宅系における虐待の種類を件数が多い順に並べると、
心理的虐待>身体的虐待>介護等放棄>経済的虐待>性的虐待
と、なっています。
虐待を防ぐには
介護職自身の意識づけ
虐待というと「悪意ある暴力行為」というイメージが強いでしょう。
しかし、ケアの一環として行ったことであったり、親しみを込めたつもりでも、訪問介護職による言動が、虐待に該当することがあります。
よかれと思ってしたことが、被介護者からしたら虐待に感じることがあるということです。
介護職が、利用者との関係が近くなったことで冗談でものを言ってしまったり、つい世話を焼き過ぎてしまったりと、ささいなことからどんどん大きくなっていきます。
相手がどう受け取るかが、虐待となるかならないかの境目なので、介護職側がいくら「冗談のつもりで・・」といってもダメなのです。
「親しき中にも礼儀あり」ということを常に心がけておくことが大事です。
1対1で過ごすことの多い訪問介護職だからこそ、より一層の意識付けが必要です。
ただ、ある行為が「明らかな虐待に当たるか」ということを意識しすぎてしまうと、怖くて介護ができなくなっていく人もいます。
そのため、「虐待しないよう、しないように・・」と、慎重になりすぎるのではなく、利用者にとってよいケアをどうすれば提供できるかという視点で介護業務にあたることが大切です。
マイナスの出来事を避けるのではなく、どうすればプラスになるかを考える方が、虐待も起きにくくなることでしょう。
事業所ができること
訪問介護職の事業所は、各介護職への教育や研修を行うとともに、コミュニケーションをこまめにとるようにしましょう。
こまめにコミュニケーションを取ることで、虐待へとつながる小さな芽を早いうちに摘み取ることができます。
また、ストレスチェックなどメンタルヘルス管理も行うのがベターです。
まとめ
利用者への虐待は、要因が重なり合って発生してしまうものです。
今回は、介護職側から利用者への虐待について説明しましたが、逆方向の虐待もあります。
虐待がおこる背景には様々なことがあることを意識しておき、ささいなことが大きくなる前に報告・連絡・相談をすることが大事です。